MIZKAN MUSEUM
インタビュー

公開日:2021/07/29 | 更新日:2022/10/21
愛知県
企業博物館
歴史資料館

ミツカンのお酢づくりを伝承し、
食に対する価値観を伝えていく

ものづくりや食に対する価値観を伝えるべくチャレンジ精神に富んだ「企業博物館」。”ホスピタリティ”と”地域への貢献”の両立という課題などを伺いました。

  • Date:2021.7.27 14:00~
    Interviewee:高木 宏様(株式会社 Mizkan Partners 広報部部長 兼 MIZKAN MUSEUM館長)、沢田 雅史様(ミツカングループ 総務部)
    Interviewer:木原 智美(フィールドアーカイヴ 代表)

質問1「この施設を造ろうと思われたきっかけを教えてください」

木原
こちらは過去に一度、大きなリニューアルをされていますね。

高木館長
リニューアルといいますか、もともと「酢の里」という博物館だったのが、2015年11月に「ミツカンミュージアム(MIM)」という形に生まれ変わった、といえますね。

木原
もともと「酢の里」だった頃のコンセプトは何だったんでしょうか?
写真でしか拝見していないのですけれども、もっと古い感じの、工場そのまま見せているような雰囲気でした。

高木館長
そうですね。
今のMIMの目的と比較していうと、今のMIMの目的は3つありまして、

  • 1つ目は、いわゆるミツカンのお酢づくりを伝承していくということ
    ミツカンのものづくりであるとかあるいは食に対する価値観みたいなものをちゃんとお伝えしていく、それに触れて体験していただく形での博物館
  • 2つ目は、知多半島の観光資源として地域に貢献をしていく
  • 3つ目は、小学生や中学生といった若い人達に、学習の機会を提供する場にしていきたいということ

以上の3つの目的を持って運営しております。

「酢の里」の頃の一番の目的は、「ミツカンのファンを増やしていく」ということでした。

社会科見学などでは使っておりましたけれども、2番目と3番目の目的が、前の「酢の里」の頃にはそんなにミッションとして強くなかったといえます。

沢田様
結果的に(2番目と3番目に)つながったと思いますけれども、いまのMIMみたいに明確に「3つ目的があって」みたいな整理をやっていませんでした。
おっしゃる通り、以前は半田第一工場の過程を見せるという、よくある昔の工場見学の形、通路を横に整備してみたいな形のものがメインでした。

木原
では、この場所にミュージアムが建てられたというのは「元工場があったから」ということになるのでしょうか。

沢田様
そうですね。場所はそのまま踏襲しています。

質問2「常設展示に際し、他の施設にはないユニークな品や見せ方などは何ですか」

木原
常設展に際して、他の施設にはないユニークな見せ方として私が目についたのは「大きな船」です。

高木館長
弁才船(注釈:べざいせん。江戸時代を中心に活躍した大型木造船で、江戸時代にミツカンのお酢を半田から江戸まで運んでいた船)ですね。

沢田様
そういった意味では全部オリジナルですからね。他の施設にはないものが全部です。

木原
確かにそうですね!どの展示物も見たことがない品ばかりでした。
その中で、大きな船をどーんと中央に、あのような見せ方をしようと思ったのは何か意図があるのでしょうか。

沢田さん
もともと展示ルームは「大地の蔵」「風の回廊」「時の蔵」「水のシアター」「光の庭」と全部で5つのゾーンがあります。
「時の蔵」では歴史を見せよう、ということを決めていて、その「時の蔵」の歴史で一番ふさわしいものということで迫力もあるし、弁才船になりました。

当時の資料がなくて苦労しましたが、「板図(いたず)」と呼ばれる弁才船の設計図が見つかり、それを元に作れる方々を探して、お願いして作りあげました。

木原
なるほど。
制作するのは大変でも、ミツカンのお酢の歴史において、弁才船の存在が欠かせなかったということですね。

(注釈:MIMの弁才船についてより詳しいお話は、招鶴亭文庫サイトの半田文化史玉手箱「中埜家文書にみる 酢造りの歴史と文化」、電通報サイトの「ミツカンミュージアム食といのちの春夏秋冬(後編)」をご覧ください)

質問3「開館当初の見せ方から変化した部分はありますか、もしあればなぜ変化させましたか」

木原
開館当初にはなかったこと、変化させたことはありますか?

高木館長
もともとMIMは完全予約制だったんですね。
ただ、ふっと予約なしでお見えになるお客様もかなりお見えになっていて、そういう場合はご遠慮いただいていたということが実はありました。

ところがこれはお客様に対してすごく失礼ですし、ミツカンの印象にとっても良くないっていうことで、いわゆる「予約なし」でもご覧いただけるコースというのを開館後、2018年に設けました。

沢田様
今も全体として事前予約制というのはぶらしていないですけれども、もともと1回30人、30分おきスタート、90分コースのみ300円ガイド付き、ということをかたくなに守っていたところから「前半だけの100円コース」という、ガイド付きではないコースを設けたわけです。

MIMは事前予約前提の施設だけれども、収容人数的には、予約されないで来た方もほとんどが中に入れます。
だから、事前予約制っていうのをうたいながらも、ご不満を持って帰られるっていうことはないという仕組みを工夫することにしたのです。

その形をとったおかげで、入館者数は10万人から16万人に増えました。

木原
解説がつくというのをメインにしたのは何か、ただパンフレットだけで見て回ってほしくないとか、そういう想いがあったということでしょうか。

沢田様
「MIMはミツカンの食に対する価値観をきちんとお伝えすることを目的としている」と先ほど館長から説明がありましたけれども、それをきちっと実現するためには、やはり情熱をもってこちらから説明するっていうのがつかないと、よかったねと感じて帰っていただけないのです。

2番目の目的の「観光施設として地域に貢献する」ということを単純に考えると、人数を集めればいいわけですよ。無料で一般開放すれば5倍も6倍も人は入れられる。でもそれだけを目的にしてしまうと、他の目的との整合性がとれないのであえてやらないわけです。

高木館長
ホスピタリティを重視して考えた結果、このようになりました。

木原
なるほど。よく考えられたうえでの人数制限+解説付きなわけなのですね。

高木館長
ガイドがつかない場合に備えてアプリで音声が聴こえてくるようなシステムも2018年のコース新設時に作りました。

沢田様
その他にも、開館当時とは演出など変更したところはいろいろあります。
思い切った演出を提案してボツになったこともありました(笑

木原
いろいろ試行錯誤されているのですね(笑
館内を歩いていて随所からスタッフの方々の「遊び心」や「ミツカン愛」を感じました。
それらは「ミツカンの食に対する価値観をきちんとお伝えしたい」という情熱からきているんですね。

木原
ところで「社員教育の一環として位置づけ始めた」というのも、変わったところの一環でしょうか。

高木館長
そうですね。
これはあくまで私の意思、ですけれども、一般消費者の方だけではなく、社員にもミツカンのことを好きになってもらえるような施設、思わず人に話したくなるような施設にしていきたいのです。

社員が例えば、うちの商品開発に行きたければ1年間MIMで仕事をしなければいけないとかね。
そういうローテーションを組んでもいいんじゃないかなって私としては思うわけです。

ここで得られることって、ミツカンのコーポレートストーリーだけではなくて、ダイレクトにお客様の声が聞けるわけですよ。

ミツカンのビジネスモデルはBtoBtoCなので、お客様と会話できるってすごく実は貴重な機会なんです。
ミツカンが問屋さんに卸して、問屋さんが小売店さんに卸してなので、直接お客様と会話することってないんですよ。

木原
そういえばそうですね。

高木館長
唯一、ではないですけど、”ミツカンの社員がお客様と直接会話できるところ” というのがここ(MIM)とお客様相談センターなんです。

そういう意味ではお客様の声が生で聞ける、お客様に我々の想いを伝えるっていうことを、双方向のコミュニケ―ションをすることで「ミツカン愛」が育まれていくなら、それはそれですごく有意義なことだなと思っていて。

そういう機会やそういう活用の仕方っていうのもあるんじゃないかなと思っています。

木原
なるほど。
そういう形でミュージアムをとらえられているんですね。
高木館長はミツカン本社の広報部部長も兼ねていらっしゃるせいか、企業ミュージアムとしての在り方をきちんととらえて、ミュージアムをうまく活用されているように感じます。

質問4「続けていくにあたって苦労されていること、お困りごとがもしあれば教えてください」

木原
お話を伺っているとこれまでに対してもこれからに対してもビジョンもはっきりされているので、お困りごとはなさそうな感じですけれども(笑

高木館長
いやいやいや、悩みだらけです(笑

先ほどいいましたように、18年から19年度に10万人から16万人にお客様がなったんですね。
オペレーションを変えたっていうことはあるんですけれども。

”地域への貢献” ということを考えると、一つの目安で30万人という指標があるんです。
30万人を受け入れつつ、なおかつ我々が考えているホスピタリティのある対応ができるかどうかっていうことは、実はすごく課題であって。

そこで今、これだけいろんなものが進化しているなかで、デジタルが一気に進化してきていますので、デジタルを使ってできることであるとか、まだまだたくさん改善しなくてはいけないことはあるかなと思いますね。

沢田さん
私は「MIMも含めた半田エリア全体の活性」ということをミッションとしていまして、半田文化というのはMIM以外にも魅力的なところがいっぱいありますから、MIMがある半田運河エリアに年間30万人くらいの人が定常的に来るっていう仕組みを作っていきたいと思っています。

そうすると、半田エリアの半田赤レンガ建物新美南吉記念館半六邸などといった場所にも効果が出てくると思うので。

観光協会とか観光課とかと連動して、現在展開を進めています。

木原
どの施設も見学したことがありますが、確かにそれぞれが連携していると見て回るのがさらに楽しくなると思います。

質問5「その他、ご来場の方々に何かお伝えしたいことはありますか」

木原
ありがとうございます。最後に、来場の方々に何かお伝えしたいことはありますでしょうか。

高木館長
再開館、楽しみにしていただきたいと思います!(笑
そのひとことにつきます。

木原
そうですよね(笑

高木館長
いま(取材当時2021年7月末)でも1日3件、4件ぐらい御電話をいただくので、その期待に応えられないこともあります。
いま開館していない時に出来ることって何だろうということと、再開館に向けて、コンテンツを変えるであるとか、あとストーリーをもっと厚くするだとか、企業博物館としてできることはないか、いろいろ考えています。

木原
休館中でもいろいろとチャレンジされているとは、すごいですね。
参考にされている企業博物館とかありますか?

高木館長
特にないですね。
私はまだ博物館館長になって日が浅いですが、どうでしょうか、これだけ地域に密着した企業博物館ってあんまりないなってちょっと思っているんです。
外観からして完全に地域になじんでいますよね。

木原
それはとても感じました。
館内に半田の歴史コーナーがしっかりあって。
そういう企業博物館って確かに私が知る限りないですね。

これからも半田エリア全体の活性化に向けて独自のチャレンジと発展を続けていくMIMを楽しみにしております。

お忙しいところ、インタビューに応じてくださいまして、ありがとうございました。

見学した際の感想

木原

今回は、弊社が2019年に出版した本『情熱の気風: 鈴渓義塾と知多偉人伝』復刊の際に大変お世話になったミツカンミュージアムにてインタビューをさせていただきました。

2019年当時に館長だった方にもとても感じたのですが、今回お話させていただいた高木館長様も沢田様もMIMのスタッフの方々からも全員「ミツカン愛」をすごく感じて、こんなに愛されているミツカンという会社はとても素敵だなとファンになりました。

再開館したら予約を入れて、また見学に伺いたいと思います。